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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2951号 判決

控訴人

柳川文敬

右訴訟代理人弁護士

田中正司

原誠

被控訴人

落合第二地区青少年対策委員会

右代表者会長

鈴木豊三郎

被控訴人

鈴木豊三郎

右両名訴訟代理人弁護士

武田仁宏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人落合第二地区青少年対策委員会(以下「被控訴人委員会」という。)の昭和五九年三月三一日及び昭和六〇年四月二七日に開催された臨時委員総会における被控訴人鈴木豊三郎を会長に選任する旨の各決議がいずれも存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一まず、本件の訴えの適否について判断する。

1  〈証拠〉によれば、被控訴人委員会は、規約を有し、名称を「落合第二地区青少年対策委員会」と称し、事務所を東京都新宿区内の落合第二特別出張所内に置き、地域社会の力を結集し、落合第二特別出張所の所轄区域内における青少年をめぐる社会環境の浄化に努めるとともに、青少年の健全な育成を図ることを目的とする地域住民団体であるが、その地域の町会・自治会等、PTA、青少年団体、保護司、児童(民生)委員、青少年委員等の関係者を委員として構成され、地域住民の自主的、民主的な組織として、青少年に理解と愛情のある人たちが参加し、いわゆるボランティア活動として、地域社会環境の浄化、生活指導等青少年の健全育成を図るための活動、構成員の属する関係機関・団体との連絡調整、地域内住民の理解と関心を高めるための活動等の事業を行つていること、被控訴人委員会には、会議体として、委員総会(会の事業の実施に関する基本方針、予算、決算、年間計画及び規約の変更に関することを審議する。)、役員会(会の運営及び事業計画の立案、部会間の連絡調整を行う。)及び部会(部会担当の事務事業の企画、運営及び実施に関し協議する。)が設けられ(なお、規約上定足数や議決の方法についての定めはなく、その意思決定は話し合いによる委員の総意により行われてきた。)、役員として、会長、副会長、各部の正副部長、会計及び幹事が置かれ、役員は委員総会において選任され、その任期は委員のそれと同様二年とされていること、会長は、被控訴人委員会を代表し、会務を掌理すること、被控訴人委員会の経費は、区の補助金(年間三五万円)、町会からの負担金及び委員の自発的負担金等により賄われ、その会計年度は毎年四月一日に始まり翌年三月三一日に終るものとされていることが認められる。

2 右認定の事実によれば、被控訴人委員会は、団体としての組織をそなえ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しているものというべきである。

もつとも、被控訴人委員会においては委員総会の意思決定について定足数及び議決の方法に関して規約にその定めがなく話し合いによる委員の総意によりこれが決定されてきたものであるが、その理由は、弁論の全趣旨によれば、被控訴人委員会は、地域社会の力を結集し落合第二特別出張所の所轄区域内における青少年をめぐる社会環境の浄化に努めるとともに青少年の健全な育成を図る目的のもとに、地域住民の自主的、民主的な組織として、青少年に理解と愛情のある人たちがその活動に賛同して集り、いわゆるボランティアとしての活動を行うものであつて、その運営も各委員の信頼と協力の上に成り立つているがゆえに、話し合いによる委員の総意に基づきこれを行うのが適切であると考えられてきたためであると認められる。しかしながら、右事実は、従来の委員総会の運営が事実上委員の総意により運営されてきたというにとどまり、規約により組織上の機関として構成員全員により構成されその多数の意思を反映させることのできる委員総会が設置されている以上、その意思決定について定足数及び議決の方法に関して規約にその定めがないからといつて、話し合いによる委員の総意により意思決定をすることができない場合に多数決によることを許さない趣旨であるとまで解することは相当でなく、また前記のような委員の総意による従前の委員総会の運営も、委員多数の意思に基づいて行われてきたものとみることができないわけではないから、被控訴人委員会の組織及び運営において多数決の原則が行われていると解するのを妨げないものというべきである。

したがつて、被控訴人委員会は、いわゆる権利能力のない社団であると認めるのが相当である。

3 ところで、本件訴えは被控訴人委員会の委員総会における会長選任の決議不存在確認を求めるものであるところ、権利能力のない社団についてもその構成員の総会の決議に関し商法二五二条の規定を類推適用して直接その不存在確認の訴えを提起することを認める余地がないわけではないと解されるが、それが許されるのは、現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要と認められる場合に限られるものというべきである。

そして、前記認定のように、被控訴人委員会は、地域社会の力を結集し落合第二特別出張所の所轄区域内における青少年をめぐる社会環境の浄化に努めるとともに青少年の健全な育成を図る目的のもとに、地域住民の自主的、民主的な組織として、青少年に理解と愛情のある人たちがその活動に賛同して集り、いわゆるボランティアとしての活動を行うものであつて、その運営も各委員の信頼と協力の上に成り立つているため、従来話し合いによる委員の総意に基づきこれを行つてきたものであるから、被控訴人委員会の委員総会における意思決定に関する紛争については、本来、被控訴人委員会の団体内部の自主的、自治的な解決に任せるのが相当であると考えられるのであつて、これにつき直接裁判所において公権的にその存否、効力を確定するのが適切な社会的紛争であるとはいえないし、右意思決定に関する紛争が会長の選任決議であつても、それに基づき、対外的、対内的関係において、派生的、連鎖的に種々の法律上の紛争が生ずるものとは考えがたく(弁論の全趣旨によれば、現に生じている紛争も、誰が被控訴人委員会の会長かの紛争にとどまつているものと認められる。)、基本となる右決議自体の存否、効力を確定してそこから生ずる紛争の解決を一挙に図る必要があるものとは解されない(仮に右決議から裁判所において取り上げるに足りる何らかの法律上の紛争が起きたとしても、個別的にこれを解決すれば足りるものと考えられる。)。

4  そうすると、本件は商法二五二条の規定を類推適用して直接決議の不存在確認を求めることができる場合に当たるものとは認められないから、本件訴えは不適法というべきである。

二よつて、本件訴えを却下した原判決は結局正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西山俊彦 裁判官越山安久 裁判官村上敬一)

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